とりかご
あおい満月

左手首に微かに残る
傷跡の意味をあなた
は知らない。あの夏
のよく晴れた朝に私
が台所用洗剤と乾燥
剤を飲み込もうとし
て苦しんだことをあ
なたは知らない。ふ
うちゃん、ふうちゃ
ん。私の可愛い小鳥
鍵を掛けて行くから
いい子にして待って
いてね。あなたの鞘
に収まらなくては生
きていけなかったあ
の頃。二六年間の人
生。それを壊すため
に私は爪を血で濡ら
して鳥籠を壊し、飛
び降りたのだ。あな
たから逃げるために
私は悪を愛した。こ
の世から愛されぬも
のを愛して、私は私
正当化させた。間違
いだとわかっていて
も逃れられるならそ
れでよかった。今で
も私はあなたの鞘の
なかにいるだろう。
鳥籠は壊れたまま埃
を被っている。あの
壊れた鳥籠のことを
あなたは覚えていな
い。私だけが知って
いる。私は片方の翼
が折れた飛べない鳥
だったことを。あな
たは何も知らないま
私の聖母として、日
向で寝転んでいる。


自由詩 とりかご Copyright あおい満月 2017-12-10 04:09:19
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