玩具
あおい満月

               

落ちていくものを拾おうとすると
指からすり抜けていく苔のような
ぬるりとしたものを掴むような感
覚が視界の奥底にある誰もが知っ
ていてまだ見たことのない小さな
彷徨える場所で揺れている。その
場所にいつも立っているのは、私
のよく知っている声と、手のぬく
もりを持っている人で、私はその
人とは重なり合っては離れて、離
れては重なり合ってきたけれど、
結局今は揺れるように同化してい
る。あなたを憎んだ日々もあった
。あなたが作った鳥籠など片手で
いつだって壊すことができたけれ
ど、本当の鳥籠は、私自身が作っ
ってしまっていたのだ。あなたの
所為にすることによって、私は自
身を正当化しながら、海を泳いで
きたのだ。ずぶ濡れの私の身体に
あなたはいつもタオルを差し出し
出してくれていたのに、あなたの
優しさを心でふり払うことによっ
て強くなろうとしていたとは、そ
んなペルソナは段ボールで出来た
玩具のようなもの。右手で簡単に
握りつぶすことが出来る。あなた
を振り切るために愛してきた悪の
呪縛から目覚めた私は、もうあな
たを苦しめない。年老いたあなた
と歩める時間は、もうあとどれく
らいだろう。それでも、お母さん
、明日はきっと晴れるはずだから
、一緒に歩いていこうね。そう思
っていたら、アスファルトの窪み
に躓いて膝を擦りむいた。滲む血
を舐めると、懐かしい味がした。


自由詩 玩具 Copyright あおい満月 2017-12-06 06:27:38
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