炎上 より
沼谷香澄

鉄塔が一・二・三・四・五・六・七冬の畑を遠巻きに走る

壁を見るたびに震える目の中の双子の振り子。時計、こわれた

毎日の電話 かならず接続後二分五秒で圏外になる

うつむいて、馬なでて、馬の首なでて、うつむいていた 馬が見ていた

二分も前に行ってしまったバスを待つ/ふゆのひ/たった十二分間

誰もいない私の腹で声がする、こ、こ、声、お、老いた男の、こ、声

貼り付けたような青空おしのけてしろい朝日が高みを目指す

八・九・十 重なりながら遠ざかる鉄塔の色。霞む電磁波

すはだかの畑に虫が飛んでくる病んでも匂うふしだらな菊

家の形の炎がそこに建っている 消防車動かない 抱いてよ

初出:Tougue3号 2003年12月29日 原文縦書


短歌 炎上 より Copyright 沼谷香澄 2017-11-03 21:32:58
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