すっとび
オイタル

二重に急落する坂を
ブレーキを絞りながら降りて
ようやく
斜度も緩んで気も緩んで
幅広の川の光が射し 鳥の声が差し
剛健なる自転車は
ただならぬ志操にて縁石にまぐわい
すっ飛ぶ地面と夏に殉ずる空を
車輪は一人行くゆく
血も行く
(遠く見えるは
 風にあおられる銀のスカートの縫い目のゆるいほつれ)

いけ、ぼくの自転車
花もない饒舌もない桜並木の方角
見よ これが ぼくの
ふるさとである 千本の花の記憶である
ぼくは今、鯖のような豊潤な腹で横たわっているか
輪切りの梅の木のように柔らかな背骨は撓んでいるか
どうだ すれっからしの橈骨は
どうだ 太いサドルは
どうだ 黒い鍵は
どうだ 血は どうだ
すっ飛ぶ地面と空は行くか
ゆくか そのまま

祖国はどうか
二重に急落する坂道を
祖国も行くか
ようやく
緩む人の気
気の乗らない雨脚
殺到する耳鳴り
どうか
ニッポンはどうか


自由詩 すっとび Copyright オイタル 2017-07-26 20:30:22
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