この夕暮れ時に、ひとときの安堵と寂しさとのあいだで、わたしの瞳の中を泳ぐ、俎板の うえのかなしい子魚たち、時のながれをさかのぼるように、わたしの水面を搔きみだす、 台所に立つ萎んだ母の背中、澄んだ水道水のかぼそいせせらぎ、揺らめいてガスコンロの 火さえも寂しげに、小さな四角い窓からは、まだ葉をつけていない冬の裸の老木、木はた とえ倒れても春になれば葉をまた茂らせることができるのだと、信じたい、あるいは、西 の窓から滲む紅のまぶしさと温かさのように、包みこむことができるのなら、このような 夕暮れ時に。