夕暮れ時に
本田憲嵩


この夕暮れ時に、ひとときの安堵と寂しさとのあいだで、わたしの瞳の中を泳ぐ、俎板の
うえのかなしい子魚たち、時のながれをさかのぼるように、わたしの水面を搔きみだす、
台所に立つ萎んだ母の背中、澄んだ水道水のかぼそいせせらぎ、揺らめいてガスコンロの
火さえも寂しげに、小さな四角い窓からは、まだ葉をつけていない冬の裸の老木、木はた
とえ倒れても春になれば葉をまた茂らせることができるのだと、信じたい、あるいは、西
の窓から滲む紅のまぶしさと温かさのように、包みこむことができるのなら、このような
夕暮れ時に。




自由詩 夕暮れ時に Copyright 本田憲嵩 2017-03-26 01:50:28
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