心拍
うみこ

ビルの虹彩にはアスピリンが打たれている
遠く銀の向こうで揺らめく
日差しの強い午後
近影は霞まずそこにある
街は熱を持ち伸縮を続ける

群れた家々の隙間で
赤い血液は想いを爆せる
道路標識の下に染みを作り
存在を思い知らせている
入れ違いに造られた体や
アパートの一室の違和感が
突発的に溢れだす

雪に濡れたアスファルトの上に立つ人の
アキレス腱は隣あって
似た者同士顔を見合わせる
その脈動は、靴底で静かに熱を冷ましてゆく

現代の心拍が空と街の間に表示されている
それは地平線のように真っ直ぐ死んでおらず
いびつで複雑な波形を示し、

夕暮れに現れる赤褐色の雨にいきなり恋をしたりして、
度々波形を乱し、赤切れのような小さな痛みを、嵐のような激しさで拭ったりする
僕らは小さな家で
その強風に耐えている
板張りの壁の隙間から入る風に
壁掛けが鳴る
激しく、重く、荘厳たる鼓動に恐怖し、
木の葉のように転がらないように、みをこごめ、震え、眠れぬ夜を過ごす
作為のない連動が、ゆりかごのように、何もかもを、揺らしている


自由詩 心拍 Copyright うみこ 2017-01-25 02:44:27
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