プリズム
うみこ

ふと気づいたら
春が消えていることはないか
胸の中から
抜け落ちていることはないか
そして同時に
舞う人はいないか
真っ暗な舞台で
舞う人はいないか
桜色の花吹雪の中で
踊り狂う奴はいないか

ガラスの顔面を持つプリズムは
わずかな光を虹色に変える力を持っている
今ほんの少しカーテンの隙間から漏れる光を使って
踊りながら新しい反射光を生み出しているところだ
本来誰の助けもいらないのだが、こうも暗くては、先程カーテンを撫でて僅かな隙間を作ってくれた面、影、の少女に感謝するしかない
あの子は誰だったのか
面影のせいでわからない
私の顔面はプリズムなのだが、あの面影は、あの面影は、

今プリズムの作った新たな反射光の照らすのは遠い過去の方角だった
照らされた先には面影がおり、面影は笑いながらいたずらにホールのカーテンを開けはじめるのだった
端から端まで容赦なく
構うことなく開けはじめるのだった

大量の光が射し
プリズムはそれを受けて輝き、踊り
面影はそれを見て全身で喜びを表し
開かれたカーテンの向こうには落っことした春が残らず見学に来ている




光射す舞台にプリズムは踊り狂う
プリズムの放つ余りに眩い光に春は次々にカーテンを閉める
舞台は真っ暗になり、面影はその暗闇に溶け込んで見えなくなってしまう
プリズムはその暗闇のなかで、なお踊り続けている

今プリズムが喜ばせたいのは面影だけであり、いつだって面影が見たいのはプリズムが輝く姿だけだ
だからまたホールのカーテンは開かれる
光を求める影が胸にあるうちは
必ずどこかで見つけることが出来るのだ


自由詩 プリズム Copyright うみこ 2017-01-19 23:41:40
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