少年(しょーや)

いよいよオープン間近の焼肉店「喰尽しょくしん」!
喰らい尽くすと書いて「喰尽」!
従来の焼肉の常識を遥かに覆す圧倒的コストパフォーマンス!!
なななんと牛・鶏・豚だけでなく猪・羊・鹿などありとあらゆる肉料理が楽しめる!
ミスジ、ロース、バラ、ツラミ、ハラミ、カルビ、サーロイン、ヒレ、ランプ、イチボ、ミノ、ハチノス、センマイ、ギアラ、テッチャン、テッポウ、ヒモ、カシラ、テール、タン、レバー、ハツ、チレ、ウルテ、ハツモト、マメ、プップギ、シビレ、ネクタイ、カッパ
あらゆる部位をほぼ破格と言っても過言では無いお値段で御提供!
さらにさらに、充実したサイドメニューもあなどることなかれ!!
大根サラダにツナサラダ、チョレギサラダにきゅうりの漬物、キャベツはざく切り千切りを取り揃え、カクテキ、キムチ、ユッケにスープ、馬刺し、レバ刺し、ビビンバ、クッパ、ライスは釜炊きコシヒカリ
締めのお茶漬けや別腹デザート、ドリンクバーまでどんとこい!
もちろんお得な宴会メニューやセットメニューも目白押し!

一度じゃきっと食べきれない!
焼肉店「喰尽」、明後日のオープンを前に1日限りのプレオープンイベントを開催決定!
オープン前日の午前〇時から午後23時59分まで、どーん!と太っ腹全品無料でのご奉仕!
時間無制限の食べ放題!!
食材が無くなり次第終了となります!
皆様、どうぞ最高の空腹状態でお越しください!!


大盛況に継ぐ大盛況。
24時間、空席は出来なかった。
人が入っては帰り、帰っては入り「長蛇の列」という言葉さえ甘っちょろく思えるほどの大行列。
従業員達はせっせと働き声を出し、笑顔で注文に応えていく。
休憩中の賄いでは優しい店長の自慢の肉料理をつまみながらひとときの幸せを胸にしまい、また厨房へと足を伸ばす。
ホールからは子供の笑い声や乾杯を繰り返す人たちの話し声が絶え間なく響き渡り、店中には炭の焼けた匂いが立ち込め、あちこちで換気扇が目にも止まらない速さで回っている。
満足した客達に、店の名刺やポイントカードを配るレジ担当。
子供にはキャンディーのサービス。
外の空気の涼しさに、お腹を撫でつつ帰る人達。
ありったけの声を出してそれを見送る店員達。

翌日、その店は営業を始めなかった。
もうとっくに営業時間を過ぎているというのに、誰もタイムカードを押していない。
なのに店の灯りは点いたまま。
昨日の余韻を引きずってまた訪れた客すら、1人も居なかった。
噂を聞きつけて店の前をキョロキョロ見つめる1人の男が、裏口から出てくるエプロンを付けた者の姿を捉えていた。

「あの、今日からオープンですよね?何時からですか?」

「もうこの店は終わりだよ。とっとと帰えんな」

躊躇う男に対して言葉少なにそう言うと、あとはひたすらに目で威嚇した。
怖気付いて足早に去っていく姿を見送るとエプロンを付けたその男は、店中に油を撒いて火をつけた。
まるで、もう用済みであるかのように容易く。

たったの24時間の間に訪れた数百数千というお客と、店のためにせっせと笑顔で汗を流し働く従業員達に致死量の毒を盛った事を知っているのは、この世でたった1人だけ。


自由詩Copyright 少年(しょーや) 2017-01-16 12:37:10
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