ラストダンス
青の群れ

軽やかに頭を垂れながら
逃避行の挨拶はこっそりと

カメラに背を向けた
二人きりのエレベーター
秘め事にもならないな
車のキーが揺れていた

流れていくフロアの景色
わたしたちは大丈夫だよと
口の中を柔らかく噛んだ

ひどく冷たい強い風が
背中を押したりひっぱったりする

戸惑う数だけ攫っていって
あのころの考え過ぎや
理不尽なその理由も
ほんとうはぜんぶ抱きしめたいだけ
まるで乱暴なセックスみたい

メンソレータムを塗りなおした唇に
張り付いた髪をはがす

体温だけを信じていれば
もう古い金属の匂いと交じる潮風で
鼻の奥がつんと痛くなることもなくなるかな

乗り込んだ車、砂のラジオ
はぐれた雲が通り過ぎていく
高速に乗っかって君とTraveling
なんて歌っちゃってさ

先には大きな月の灯がビルに反射している
圧倒的な影を足元にくっつけていく
そんなに大きいのならいっそ
全部真っ白にしてくれてもいいよ

とびっきりの祝福をちょうだいよ

このまま深い青に飲まれていくのもいいね
着ることのなかったウエディングドレス
滲むカーライト、東京タワーもぼやけて


自由詩 ラストダンス Copyright 青の群れ 2017-01-05 16:17:25
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