或る音
青の群れ

胎内の音は覚えていられないね
夜明けの前のカラスの声も

皮膚の下の七割の水は今も轟々と音を立てているというのに
わたしたちの耳は気づかない

潮で錆びた看板や港町の工場や
点在する小さな公園や酸素を吐き出す街路樹や
見えるものばかりを目は追いかけていたのに

JRが朝を運んできたことを目を閉じたまま知る

金属みたいに冷たくもないし
フェルトのように暖かくもないけれど
柔らかい胸に耳を押し付けて
聞こえた音に安心したいと思っているでしょう
線路に打ち付ける、大きなわかりやすい音も

聞こえないものは、ないものになるの?
地球、わたしたちには聞こえないような低周波音
絶えず揺れている
たしかにある音、その音はたぶん十ミリヘルツと
機械で計測してそこにあったんだと思うような

人の存在、振動がきこえる
目覚める朝、空気を挟んで震える肌
この振動を共有したいと思ったりして
腕の中の感触、その下の小さな音に耳を澄まして

鳴り止まないすべての音、水中の合図の理由
イルカやくじらの声だって、そこにあって
愛を伝えたりしていて

不遇の時代を羨むような夜明けがきたら


自由詩 或る音 Copyright 青の群れ 2017-01-17 17:08:51
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