夜ばかり
うみこ

もしも真夜中がこれ以上長かったら
私は姿を変えて
あの街の塀の陰へ急ぐだろう
深海の鯨の死骸のような、
黒塗りの木のそばで、
優しい月を見つめ、
静かな排気のバイクで、
蛍光する速度制限の上を走ってゆく。
学生は(世)紀末テスト前、
バスに乗って、
星歌つながりでグループを作り、
万が一朝が来たときに備え、帰り支度を済ませ、
ゴーグルを着けてパン屋へ潜って行く。

詩人はノートをとりだして、
「夜の表面は、
海の深くで鯨が翻ったときの、
腹の白さに似ている、」と
書き残す

また、夜は蜂に刺されて、
椿の花を落とす。
ハイヒールは水の底に沈んでゆく。

空の遠い場所で、
たよりなくゆるぎない力で、
引き継ぎのためのパイプが結ばれる。
透明で
ゴム製で
折れる前に曲がるのだ
これは、
銀河形成の
秘密に似ている

金属の眼鏡で
古い秘密を観測する趣味が生まれる。

千切れたぬいぐるみの
縫い跡が放置され
次の陽の光の集合場所になる。
想い出のオルゴールが、10億年に一度、微かな音を出す。

夜がつづくと
我々は延々と夢を見る

もしも真夜中がこれ以上長かったら
私は姿を変えて
あの街の
塀の陰へ急ぐだろう











夜ばかりが
続くなら













自由詩 夜ばかり Copyright うみこ 2016-09-26 07:54:05
notebook Home 戻る  過去 未来