旭ヶ丘1890番地の記憶
板谷みきょう

ボクの右足の中指には
1㎝程の傷跡がある

余市に引っ越すのはお兄ちゃんが
啓明中学校1年で
ボクは緑が丘小学校の4年生だった

二軒長屋みたいな
旭ケ丘の営林局官舎に住んでた

隣に住んでるのが安藤さんで
アンちゃんとくんぺの兄妹が
住んでいて
遊んだ記憶がある

雨が降ると旭ヶ丘高校のグランドに
大きな水溜りができて
なかなか水が引かない時には
卵を産みにトンボが飛んで来たり
オタマジャクシが居た

小学校の二年生の頃だと思う
いつものように雨上がりの後で
旭ヶ丘高校の
グランドに出来た大きな水溜りで
オタマジャクシを捕ろうと
裸足で入っていたら
ガラスの破片で
右足の中指をざっくりと切ったのだ

真っ赤な血がいっぱい出て
止まらなくて
吃驚し過ぎて水溜りの傍に
しゃがみ込んだままで大泣きした

履いたゴム靴の中が
ヌルヌルだった
野球帽に半ズボンと
汚いランニングシャツなのに
旭ヶ丘高校の女子生徒がおんぶして
家まで送ってくれた

背負われたままで
ずっと泣き止まぬボクに
荒い息で優しく声を掛け続けてくれた
何を話しかけてくれていたかは
覚えてないけど
短い髪に首筋に汗と大きな背中

家に着いてからのことも
覚えてない

当時は
あの女子高生のお姉さんは
大人に見えたけど
本当は
まだまだ子供だったと思う

思い出そうとしても
右足の中指の傷跡のように
年と共に薄れていくばかりなのだ


自由詩 旭ヶ丘1890番地の記憶 Copyright 板谷みきょう 2016-06-06 21:40:03
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