縁の切れ目
板谷みきょう

「内緒で10万円貸してくれないか
彼女に子どもが出来ちゃって
堕ろさないとマズいんだ。」

そんな電話がきた

マサアキとは
学生時代からの親友だった
悪戯も悪ふざけも一緒にした

ボクは看護学校へ行き
彼が調理師専門学校に行った時も
看護婦の卵を何人か紹介して
遊び歩いた仲だった
そしていつしか
別々の道を歩むようになって
極偶にしか
会うことは無くなって
お互いに家庭を持つようになっていった

「彼女って…嫁のこと?
目出度いんじゃないの?」

そう言うと
「否、実は。オレさぁ
今、レストランを任されて
店長やってるんだけど
ソコにバイトに来た学生と
付き合うようになっちゃってさぁ
…それで、出来ちゃったんだよね
嫁にバレるとヤバいからさ
こんなこと
板谷にしか頼めないじゃん。」

返す言葉を失ってしまっていたけど
10万円を何とか借金して
必ず返してくれと一筆書いて
用立てたのも
親友だからだった

でも、それから数日して
新聞の地方版に彼の名前を見付けた
堕胎させられた女性の兄が
切り付けて
顔面を数十針縫う怪我を負ったという事件

暫くして
親戚をも巻き込む夫婦間の修羅場で
内緒で貸した堕胎費用の出所もばれて
お金は返ってきたけれども

その時から連絡は途絶え
縁は完全に切れてしまった


自由詩 縁の切れ目 Copyright 板谷みきょう 2016-05-22 21:23:29
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