錯覚
八雲みつる

生まれてからただ死に行く為に。
死ぬ場所を求めて彷徨う。

夜眠ったら朝が来て、一年経てば年を取り、何年経ったらさようなら?

あそこで泣いているのは誰?
あそこで死んでいるのは誰?

また、蝉が鳴き始める。

それは、命の呼吸。
または、存在の証明。
たぶん、明日は雨。

生まれたものは平等で、同じリズムでビートを刻む。
ブルース、ジャズ、ロック。
括りは音楽。でも別物。

人種、国境、宗教。
括りは人間。括りは人間。

僕は、世界が全てだと思っていた。
そして、全てが世界だと思っていた。

たっぷりと時間を掛けて、心に染み入る雨の音。
北の空にはキノコ雲。南の海の水平線。
ジャガイモ畑で鳴く鳥も、廃工場のどよめきも、
あの子が上げた産声も、月の手紙の郵便も、
何故か解けないパズルのように、
とうの昔に置き忘れ、人の噂も七十五日。

解けた氷の示す先、酷く気だるい日曜日。

小物入れから太陽昇り、旅する先はオリオン座。

南中を迎えた太陽は、ますますの光度を保ち、
ゆっくりと砕けた。

流れ流れる激情かわし、ノアの箱舟乗り込めば、
足りない乗車賃を悔い、冬の荒野に消えていく。

繰り返す
僕は、世界が全てだと思っていた。
そして、全てが世界だと思っていた。


自由詩 錯覚 Copyright 八雲みつる 2016-02-03 20:47:59
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