14
きるぷ

東口から出て
街道沿いにしばらく歩いたところに喫茶店があった
煉瓦製の防空壕のような店だった

バータイムになると円い小さなテーブルやカウンターの上に
高価な猫みたいな目をした店員が
ひとつずつ小さなローソクを置いた

昔の音楽を聞くともなく聞きながら
ときどきそこで聞いたことがあるようなカクテルを飲んだ

一人のときもあれば二人のときもあった

二人のときは大抵静かな声でぽつぽつと
意味があるのだかないのだか
よくわからない話をするのが常だった

一人のときは大抵
ローソクの火が揺れるのを眺めていた
それくらいしかすることがなかったから

ローソクの火は
手懐けられた破壊というようすで
どことなく可愛らしく見えた

これと同じものが山や草原を焼くというのが
わたしにはうまく想像できなかった

それでも時折
ふとした瞬間に
どこか体の奥のほうの薄暗い場所から
喚び声が聞こえるような気がすることがあった

ときにはこの、
掌におさまるサイズの暴力を導きとして
モローの描いたサロメを連想することもあった

その印象は喚び声と連れ立って
わたしに何かを教えようとしているようだった

そんな感覚も
勘定を済ませて窮屈な階段を上り
雑踏のなかにまぎれてしまえば
いつもどこかに消えてしまった


自由詩 14 Copyright きるぷ 2015-03-24 02:54:09
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