13
きるぷ

日曜日の街は凪いだ海のように静かだった

わたしは子連れの夫婦や
恋人たちや老人の集団が
誰も彼も一様に楽しげであることや
そのような人々の賑々しさの中にいるにもかかわらず
これほど自分だけが静かな気持ちであることを
不思議に思った

薄暗い部屋の窓から
よく晴れた庭を眺めているとき
やわらかい風が吹いて
樹木が揺れる、

するとそれに応じて
蜘蛛の巣のような樹影も揺れて
かさかさと葉の擦れる音だけが
いつまでも耳に残っている

そんな感覚を薄く引きずりながら
待ち合わせの場所に向かうためにわたしは歩いていた


昨日は攫われる夢を見た
夜、眠ろうと試みているとどこからかそれがやってきて
わたしは遠くに攫われた
しかもわたしはわたしが攫われてゆこうとしていることを
はっきりと自覚しもしていた

目が覚めれば
わたしはわたしが攫われたことで
すっかり前のわたしとは違ってしまっていることを知るだろう
そのように思いながら
眠りの中で眠りにつく夢だった

今日の気分も
そんな夢を見たのが原因なのかもしれなかった


彼女とは東口で待ち合わせていたが
時間になっても彼女は中々来なかった
会うのは久しぶりだったが
それはいつものことだった

時間をつぶすために喫煙所で煙草を吸っていたら
急に周りの音が尖って聞こえてきた
だまし絵の図と地が入れ替わるように
わたしの世界が反転し
急激な不安がやってきた
いつもと違うのはわたしだった


彼女は二十分遅れて到着した
春物のコートの裾がなつかしい調子で揺れて
こちらに向かって来る様子を眺めていたら
何かに許されたような気持ちがした






自由詩 13 Copyright きるぷ 2015-03-23 02:07:29
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