からすとゆき
吉原 麻

待って、待って
と言いながら 母はついてくる
最近 少しは 歩けるようになったみたい
けど、台所で お米 をとぐわたしにむかって倒れこんできた母は ふわ り として
枯れた 木 のにおいがした

いつになったらお父さんは帰ってくるんだろうね
と、長いまつげで指先の ささくれ を見つめる母は
去年死んだ父のことを知っているはずなのに
去年父が死んだことを知っているはずなのに
なかったことにして 帰り を待っている

庭に出した椅子におさまった小さな 母 は
夏用の帽子を抱きしめて 枯れ木 を見あげている


自由詩 からすとゆき Copyright 吉原 麻 2005-02-03 17:32:51
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