陰翳
そらの珊瑚

とても
とほうもなくとても
すてきな小説を読んだ夜
手放してしまうのが惜しくて
胸のなかで
それを抱きしめつつ眠れば
冬由来のゼラチンは
純粋な水によって
隅々までふやけ

迎えた朝はとても
やわらかい

誰かが誰かを(ゼリィほどの粘度で)想っている

世界は陰翳で出来ている
という遺言
どこへ行こうと行くまいと
ここから逃げても逃げなくても
本当の闇はそう長くは続かない

かすれた口笛
枕が放つ体臭
夜が描いたシーツの皺
白い爪の曲面
カレンダーに印字された数字
土曜日であったという意味
かたつむりが製作した葉上のたどたどしい道
教会の上に立つ白い十字架
そして
小鳥の声にさえ
東の空から生まれた
光が差し込めば
喜びに似た
ふかぶかとした立体が
浮かび上がってくる






自由詩 陰翳 Copyright そらの珊瑚 2014-06-14 08:59:19縦
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