饒舌な散歩

雨はなぜ私をすり抜けていくのか
そんなことを考えながら歩いている
死者を飛び越える猫のように
あるいは歩きはじめた老人のように
それは古寺へと続く苔生した山道であり
田植えが終わったばかりの田園であり
ゴミ箱が転がる街の裏通りであり
兵士たちが塹壕に蹲る戦場でもある
呼び止める声が聞こえても振り返らない
どうせ歩き続けるしかないのだから
相変わらず雨は私の細胞を素通りして
水溜まりに次々と新たな宇宙を造る
見上げれば眩しい空白の向こうから
終わりなくそれらは降り続いている
しかし見開いている私の両の瞳には
何時まで経っても世界は生まれない
感覚を統べる王宮をトカゲが這う
君は永遠にオリジナルにはなれない
かわいそうなベテルギウスと
暗闇の中のミルク・クラウン
そして置き去りにされた卵たちとの
意図しない共同生活を夢見る
電話の向こうで啜り泣く夜明けを
上の空でなだめながら
先細りの希望を額に塗りつけ
瞑想の向こうにある孵化を待つ
こちらを見るな
煙草を吸うな
初めて見る世界は暗号のよう
濁った発音の不規則な反復
人は匂いだけで泣けるというのに
五感を駆使しても共食いは終わらない
もう諦めろと道端の空き缶が忠告する
舌打ちをして目をやるがそこには何もない
最初のため息はいつの事だったのか
誇らしいカンバスを切りつけたのは誰か
すべてを忘れ果てても疑問だけは残る
本当に雨はなぜ私をすり抜けていくのか
下らない問いだと吐き捨てた子どもが
遺伝子の螺旋を軽やかに滑り降りていく


自由詩 饒舌な散歩 Copyright  2014-02-19 14:06:32
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