はやにえ

笑っている花瓶を床に叩きつけて
彼女の一日は始まる
すでに夕陽へのカウントダウンを始めながら
鼻歌交じりで自慢の髪に火をつける
深海魚の庭園から響いてくるベルの音
聞こえないふりをしないと食べられてしまう
(爬虫類の、目をした、あの人に、頭から)
愛しい人の顔をめがけて(ぬるぽ)
振り下ろされる鉄パイプ(ガッ!)
創造より破壊の方が容易いから
生きる意味があるし殺す価値もある
カレンダーの文字が次々に剥離して
彼女の血管に侵入していく
通りすがりのオーバードーズ
(じゃあ生まれてこなければ良かったのに)
結局は何も変わっていないことが判明しました
ただ視点が移動しただけというありがちなオチ
打ち寄せる波を洗う遅れてきた化石クリーム
不安な城を見上げる少女のアルカイーダ・スマイル
天使たちがあまりにも騒ぎやがるので
思わず小一時間総括させてしまった
こんなこともあろうかと
あらかじめ穴を掘っておいて良かった
「たどり着けないのは、君だけで、君、の、大切な人たちは、大、丈夫」
それなのに彼女の地下室では腐敗が進行していく
「温度が憎い、湿度が憎い、何より、奴の体温が許せない」
そもそも彼女は何処を歩いているのか
右の足が夏のアラスカのツンドラを踏みしめる時
(それはスポンジのように頼りない感触)
左足の爪先はロプノールの痕跡を求めて彷徨う
中折れ帽をかぶった新聞記者たちのストロボが
彼女のスイッチを入れて痙攣を引き起こす
受胎告知を聞くことなく水没していくマリアだ
刺青に飾られた千の腕が彼女を王国へと導く
それは卒業のしゅみれーしょん(なぜか変換できない)
懐かしい葬送の歌に目を開いてみると
そこは安葉巻の臭いが立ち込める告解室
東と西の壁には大きな合わせ鏡があり
その中では秒刻みにスライスされた
幼女から老女までの彼女が
互いの存在に気付くこともなく
曖昧な笑いを浮かべて走り続けている
黄昏と黎明の狭間が朧気に光るのが見える
急がないと腹腹時計が完売してしまうから
頼りない世界をひたすら走れ
行き先も目的も忘れ果て
肉体すら置き去りにして
ゴールは目前
そう、その先
そこの角を左に曲がると
寛解です



※以前に『もとこ』名義で別の詩投稿サイトへ投稿したものです。


自由詩 はやにえ Copyright  2014-02-19 14:04:48
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