夜の風

夜の風に呼びかけられて
居心地の良い部屋を捨てる
駄目な方へと向かう本能
どこかで赤ん坊が泣いている

綺麗な花を上からのぞいても
ダ・ヴィンチの要塞都市を連想する
そんな思考に石を投げられて
いつも夜の中を歩いていた

国籍と匂いを区別できない
資格と愛情を分離できない
青い空に浮かぶ雲はすべて怪物
だから夜の中を歩くしかない

暗い空は雨を孕んだ雲ばかりで
星はすべて食い尽くされている
零れた墨が微かに波打って
ただ虚無だけが流れている

歩きまわる内に世界は迷路になり
方向も目的もすべて剥がれ落ちる
見上げれば一羽の大きな鳥が
夜への同化を拒んで飛んでいる

確信があって羽ばたいているのか
それとも彷徨い続けているのか
さらに深い闇を目指しているようにも
夜明けを迎えに行くようにも見える

どちらにせよ鳥は飛び続けている
ただ鳥であり続けるために
夜を歩くすべての者たちを
どこかへ導いているかのように

だから私も後に続くことにする
それもまた選択のひとつだから
生まれたばかりの私の産声
今は明瞭に聞き取ることができる

誰にも会わずに歩き続けたい
飛び続ける鳥の軌跡を追って
夜の風は祝福するかのように
青臭い木々の枝を震わせている


自由詩 夜の風 Copyright  2014-02-22 22:50:52
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