easy
Debby

たとえばきみが何もかもを
小文字から始めてしまうひとだとしても、
両方の足を水の中に沈めて
砂の肌触りがずっと流れていく日のこと
生き物たちは、朝になれば。

とてもよく乾いたシャツの中に
顔をうずめているときの
ことを思い出しているきみのことを
潮を上げていく海のこと
河口を遡るひとびと。

かなしくなってしまったとしても、
どこへ行くかわからなくて
これがはじめてのことみたいな
気がしている。
どこまでも続く蜂の巣みたいな団地に
はためいている洗濯物。
ベランダには黴だらけの洗濯機。
使い古しの星。
切れかけた靴ひも。

雨が降る日が三つならんで
それからのことは思い出せない
ずっとむかしきみたちは、
この町まで歩いてきた。
町ができるときの音を想像してみるといい
積み上げられる石、塗られる壁
つながれていく金属
ずっとむかし、きみの兄弟たちは
ペンキを混ぜ合わせて
空をこの色に塗りたくった。

いつかぼくたちはみな、
ここから転げ落ちてしまうものだとして。
いつか、砂の中の足は波にさらわれてしまうものだとして。
もういちどこの場所からきみたちが
乾いた星に火をつけて
大きな音を立てて燃え上がる
こんなふうに、なにもかもが失われていくのなら
必要とされたセンテンスは、
言葉は。

たとえばきみたちは
こうすべきではなかったと思う
まちがっていた事柄の全てが
いつか僕たちはここからみな、
声も上げず転げ落ちてしまうものだとして。
あなたの言葉はなすすべもなく
小文字から始まってしまうものだとして。
街ができるときの音をあなたは
こもり唄にして育ったのだと。
空はこんな風に塗られたと
もうずっと昔の兄弟として。





自由詩 easy Copyright Debby 2013-12-16 02:03:34
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