サムイホシトカゲ
Debby



三月の終わりになると
サムイホシトカゲはいっせいに
繁殖行動に入る彼らの
背中いっぱいに蓄えられた
太陽のあたたかさを
子どもたちは一秋をかけて
サムイホシトカゲをポケットに詰める
そうやってこの星はなんとか
やってきた。

繰り返した冬のために
言葉を費やすときの
あのあたたかさのことを
あなたはふとした時に思い出すかもしれない
そこはきっと三月の暖かな日で
どこだっていい駅のホームからあなたは
空を見上げている冬のために
費やされた言葉の青みに。

サムイホシトカゲは夏になると
どこかへ消えてしまう彼らのことを
さがすひともいる、もうずっと探している
彼らのことを探している
子どもたちが歩き去っていったあの道を
たどる様にあなたはずっとむかしの
やり方を思い出す自転車に
初めて乗れたのは
今日だ、サムイホシトカゲが
消えてしまう日
あなたは自転車に
乗れた。

サムイホシトカゲのことを
あなたと話し合いたいぼくたちが
冬のために費やした言葉を
弔いはいつもこうだった
何を語っていいかいつもわからなかった
僕たちはもうずっと子どもで
無言のままに手を引かれていた
サムイホシトカゲのことを
あなたと話し合いたいぼくたちが
あの言葉少なな冬に
ほんのわずか
語ったみたいに。






自由詩 サムイホシトカゲ Copyright Debby 2014-03-21 01:55:23
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