冬の初めのごく小さな事
くみ

『冬の初めのごく小さな事』


こういう休日は大して珍しい事ではない。
俺は恋人と連れ立って街に出る。俺は本屋や古本屋、更に時間に余裕があれば図書館、ゲームもやるからたまに中古品を扱っている玩具屋も覗いてみる。
恋人はいかにも女子が好みそうな雑貨屋や花屋、カフェにも立ち寄る。
そして最後にスーパーで食材を買い求めるというパターンだ。

だいたい立ち寄る店はいつも決まった所だ。俺も恋人も新しい店の開拓はしない方で、強いて言えば恋人が最近新しく出来たカフェに行こうと誘う位だ。

仕事柄、頭の中は常に最先端の事を仕入れなければいけないので、せめてそれ以外はという心の表れなのだろうか?
正直、常に新しい物を取り入れたり変化を求める事は結構面倒でしんどい事だと社会人になってから思うようになった。

古本屋では恋人が恐ろしく高価で表紙の文字から察するにいかにも戦前に発行された植物図鑑の前から動かない。そんな事に「あれ、植物図鑑は3冊までって約束じゃなかった?」と小言を言う自分。

俺も俺で食料品店で意味もなく余分な食材を籠に入れようとして「ねぇ?お肉断ちはどうしたんだっけ?」と俺の下の名前をちゃん付けした上に意地悪そうに綺麗な顔で微笑む恋人が居た。

12月に入り、冬の初めの洗礼かのようにとても風が冷たい寒い日だったけれど、手を繋ぎながら耳から脳内に伝わる大好きな恋人の声が俺の冷えた身体を温める。
その声は、どこか頼りなさげで可愛いだけの声から、ほんの僅かに大人っぽい感じがしたと気付いたのはまだ俺だけだと信じたい。

あったじゃないか、小さな変化が。


散文(批評随筆小説等) 冬の初めのごく小さな事 Copyright くみ 2013-12-13 23:15:23
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