ハロウィンの日までは
くみ

『ハロウィンの日までは』


最近、目に余る位に恋人の食生活が乱れすぎてると感じ取った自分は、少々可哀想に思いながらも強硬手段に出る事にした。

恋人は甘党だ。

カフェなどに行けば当然ケーキ2個食べは当たり前。
コンビニやスーパーへ行けば新作のスイーツや甘いパン菓子のチェック、はたまた果物まで見るのを忘れない。パン屋でもケーキが置いてある所ならすかさず両方チェック。
ネットでスイーツ情報を見ては今にもとろけそうな顔をして画面を見つめている。

その癖、普段の食事はコンビニ飯で適当に済ます。しかもかなりの少食である。

週末一緒に居る時なんかは、自分が食事を作ってやるのだが、目を離すと、自作の甘いチョコレートやキャラメルソースがかかった生クリーム入りコーヒーやココア、冷蔵庫に入っているアイスで自作パフェなど、お前は小さい子供なのか?と思わず突っ込みたくなる。

それなのにスタイルはやたらいいから不思議で仕方無いのだ。

確かに美味しい物を食べて幸せそうな顔をしているのを見るのは、こっちも嬉しいが……でも敢えて心を鬼にしてと言うのは言い過ぎだがちょっと厳しく甘味制限を試みた。

無駄な試みだと思ったが、試しに冷蔵庫から一切の甘味を無くしてみた。それに週末一緒に居る時の買い物は1人でスイーツ売り場にふらふら行かないようにしっかり手を握ってみる。
職場は間食してないかなんて直ぐに分かるから楽だ。
問題は恋人の家だが、幸いな事にレシートをそのまま貯める癖がある。
それを見れば一目瞭然だ。

「最近、お前の食生活と身体が心配だからハロウィンまではお菓子禁止です。もし、家で間食したら週末は会いません?分かりましたか?」

恋人の目をじっと見てわざとらしく子供に言い聞かせるみたいにしてそれを伝えた。
一瞬、綺麗な顔が拗ねた顔になり話の途中で不満を訴えてきそうになったが、週末に会わない。これは結構応えたらしく、恋人は素直に頷いて言う事を聞いてきた。




「Trick or Treat」

ハロウィンの日の夜、恋人は少し恥ずかしそうな微笑を浮かべてハロウィンお決まりの台詞を言ってきた。

「今日までよく我慢出来たな。偉い偉い」

恋人の身体を自分の方に抱き寄せて優しく頭を撫でてやる。
今日の香水の香りは甘い果実系の物だろうか?香水で気を紛らわしているのだろう。
それに混じって微かにお香の匂いもする。

なんかいじらしくて可愛いと思ってしまい、ますます力を入れて抱き締めた。

でもまぁ、だいぶストレスが溜まってきた頃だしと思い、ハロウィンの今日は甘味を解禁した。

ハロウィンは元々、アイルランドに居る古代ケルト人の秋の収穫祭や悪霊などを追い出す宗教的な意味合いのある行事などから発祥したと言われている。

今日の夕飯は気合いを入れて作ってみた。ピラフはウインナーで形を作ったお化けが混ざっている
南瓜をベースにしたベーコン入りのキッシュ。皿の端に人参で作ったお化けと笑っている南瓜を伸せてみた。そしてメインの黒っぽい色をしたカレーには生クリームで試行錯誤しながら描いた流れ星と魔女と猫。

夕飯の後にすぐ甘味を出してやろうとも思ったが、ちょっと焦らす意味合いも兼ねてハロウィンに纏わる話を始めてみた。
部屋を暗くして、南瓜のランタンだけを灯して雰囲気を出してみる。
南瓜のお化けのジャック・オー・ランタンの事。何故、子供達はクッキーやチョコレートを貰いに一軒一軒家を訪ねるのか?こんな話がある、と色々な話をしていたが予想に反して結構真剣に聞いている。
ならば東欧で創作として伝えられたという吸血鬼の話から、通称ドラキュラ公または串刺し公と呼ばれた 、15世紀のワラキア公国の君主ワラキア公ヴラド3世の話、図書館で読んでみたケルトの宗教の事、女吸血鬼カーミラの話など自分の知ってる限りの話をしてやった。

自分の方があまりに話に夢中になりすぎて、甘味を出してやるタイミングが遅くなってしまい、急いで冷蔵庫からお待ちかねの物を出してやる。

それを見た恋人の目は純粋な事にみたいに輝いていた。

甘さ控えめな自分の作った南瓜を使ったケーキ2切れ。
それだけでは物足りないだろうと思ってホットミルクにメープルシロップを入れてみた。

「美味いか?それ、ちょっと甘さ控えめにしてみたんだけど。ケーキなんて滅多に作らないから意外と手間かかっちゃったけど」

「うん……泣いちゃう位に美味しい!」

「泣くって…そんな大袈裟な」

「 また来年も手作りのお菓子食べたい。ダメ?」

恋人はちょこんと小首を傾げて満面の微笑みでお願い事をしてきた。
自分はやっぱりこの仕草に弱いらしい。

「ん?そうなのか?ならもっと練習してみようかな」

「そしたら試食するね!」

「あ、うん。ってお前、それじゃ意味ないだろ?!」

困った

これじゃ、作戦失敗じゃないか。

やっぱりハロウィンだから目に見えない魔物達が邪魔をするのだろうか?

でも、自分の作ったケーキをそんなに嬉しそうな顔をして食べてる恋人を見たらちょっと気が揺るんでしまうし、悪い気がしない。

自分だって晩酌とかなかなか止められないし。

(人の事言えないな……)


とりあえず、今日は10月最後の日、ハロウィンだ。
この日位、魔物達と一緒に菓子類を楽しんでもバチは当たらないだろう。
対策はまた明日から考えればいい。

自分も滅多に飲まない赤ワインで晩酌しよう。


散文(批評随筆小説等) ハロウィンの日までは Copyright くみ 2013-11-01 23:52:25
notebook Home 戻る  過去 未来