あらゆる死に方
ねこ歩き

つつましい暮らしに 理想を幾重にも重ねて
泳いできた この海は 今や何もない絶望に見える

向かい側のシートに
切り取ったような家族の構図
夕暮れのライトが幸福を照らす
河に乱反射する輝きは愚かに

なにもかもを手に入れて
もう不自由なく 死んでいきたい
想像し得る あらゆるものを僕の手に
そして心置きなく 僕は僕の身を殺したい

そこに紅茶を注いだら 休日は消費するだけ
明日へ向けた処刑台 目を瞑るのにも飽きたな

ソファー、ライト、掛け時計
なにもかもを手に入れて、死ぬ
それが理想の死に方と 愚痴の様に零すのは
平凡な東京のど真ん中 平凡な東京のど真ん中

溺れぬように必死で 身に纏うあらゆるものを捨ててきた
残ったものはなにもない もはや理想も夢もない

せめて、もう一度

なにもかもを手に入れて
あまりに不自由で 沈んでいきたい
光射し込む あらゆる現実に手を伸ばし
そして心置きなく 僕は僕の身を奈落の底に落としたい


自由詩 あらゆる死に方 Copyright ねこ歩き 2013-12-01 20:48:25
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