悠久かくれんぼの拡散
ゴースト(無月野青馬)

パパ
私には見えない友達が居たの
本当に居たの
嘘を吐いてはいけないと学んできたから
嘘を吐いてはないの
私は
あのグループの人達のように息を吐くように嘘を吐くことをしないことは
パパが一番よく知ってるでしょう?
だから信じて欲しいの
私の記憶が
鮮明な内に
書き残しておこうと思ったの
私の心の傷を和らげてくれた
(そして)
(私には)
(悪魔でも神様でもあった)
「彼女」や「彼」達のことを記しておくから
パパが
読んでくれたら嬉しい
「彼女」は
ある日突然
私の前に現れたの
まるで
ファンタジーの世界が現出したかのようだった
本当に本当に不思議だったの
私が
教室での、あのグループからの仕打ちに
泣き濡れていた夜に
私のベッドサイドに
いきなり現れたの
「彼女」は
私にこう言ったわ
「貴女は一人きりじゃない。“私達”が付いているわ」と
私は
信じられなくて
誰の姿も見えないのに
声だけが聴こえてくる現状が
信じられなくて
初めは恐れたわ
初めは恐かったけど
でも
それでも
その声の主が
暖かい心の持ち主だということが
何故だか私には
だんだんと分かってきたの
信じられないことを
信じられるように
なっていったの
それからは
それからの日々は
まるで夢のよう
夢のようだった
私への行く先々での嫌がらせが一切無くなったの
一切無くなったのよ
信じられる?
ママは
信じてくれなかった
何でも信じて騙され易い
あのママが信じてくれなかったくらい
それくらい奇跡的な出来事だったの
そして
私には信じられないくらい大きな恵み(後で最大の困難)になったわ
私は
ママの信じていたヘンテコリンな神様に感謝したわ
一生ママの神様に付いて行ってもいいとさえ思ったの
本当に思ったのよ
それからも
私の日常は愉しくて愉しくて仕方がなかった
ずっと私が死ぬまで
この幸せが続くものだと思っていたわ
「彼女」はいつまでも優しかったし
「彼女達」も入れ替わり立ち替わり
私を励ましてくれていたの
でも
あの日
あの日
あの日
あいつが私の前に現れてから
この幸せが続かなくなってしまったのよ
あいつ
あいつ
あいつ
「ボビー」と呼ばれていたあいつが
私を、私達を狂わせたの
あいつは
あの憎いグループの人達を使ってきたの
止まってから半年も経たない内に辱めが再開されたの
この時に私は
学校を辞めたくて
辞めたくて堪らなくなっていたのだけれど
けれどね
「彼女」が「彼女達」が私を止めるのよ
慰めるの
「学校を辞めてはいけない」とか
「貴女は一人ではない」とか
言ってくれるの
ママも
私を応援してくれていて
パパの代わりにもなるって言ってくれたの
だからね
私は残りの半年頑張ろうと思った
それで
学校にも行った
教室で授業も受けた
嫌がらせも絶えた
「彼女」は必死で
「ボビー」の使いパシリ達から私を守ってくれたわ
(そして)
(「ボビー」に操られてしまっていた)
(あのグループの人達を懲らしめてくれた)
(けれど)
(その時に)
(私は)
(操られていた彼等に同情したの)
(そして)
(「ボビー」がいけないんだって思ったの)
二日後
「彼女」の雰囲気がおかしかったの
「彼女達」の雰囲気も変だった
そしたら
「ボビーが来る」って言ったの
「ボビーが、ケインを連れて来ている」とも言っていたわ
私には
何のことかよく分からなくて
困ってしまったのだけれど
その日は学校に行くことにしたの
だって二日前に
「彼女」が「ボビー」を追い払ってくれていたから
それに「彼女」も
「ケインが来れば、安全な場所など無い」
「1つでも多くの思い出を作りに行きなさい」って言ってくれたから
それで
私は
ママと朝食のシリアルを食べて
行ってきますの挨拶をして
学校に行ったの
ここまでは
いつも通りの幸せな日常だった
変わり映えは無いけど幸せな日常だったわ
私は学校に行った
教室に入った
でも
いつまで経っても先生が来なくて
業を煮やした日直の男子が
職員室に行ったの
でも
いつまで経っても日直の男子も先生もやって来ないの
幾ら何でもおかしいって話になって
不良グループなんて勝手に好き勝手し出すし
誰にも統御出来ない、所謂学級崩壊状態になってしまったの
そして
この時にね
信じられないことが起きたの
いきなりみんなが教室から退室し始めたの
その時に「彼女」は叫んだ
「ケインの仕業だ」って
そして
「彼女達」に命じて
ケインを包囲する為に
「彼女達」に校舎を取り囲ませたそうなの
私は
「彼女」の指揮ぶりに感心していたのだけれど
この一連の流れの中で
油断してしまったわけではないのに
黒い影に背後を取られてしまって
羽交い締めにされて
勢いよく教室から
引き擦り出されてしまったの
そいつは
「ボビー」に操られていた、私を苛めていた人達の内の一人だった
私は
「彼女」の助けもあって
羽交い締めから脱け出して
廊下を走って
三階建ての校舎の二階の窓から飛び降りて
駐輪場に行って自転車にいつでも飛び乗れるようにしてから
校舎を観察してみたの
急いでいたから気付かなかったのだけれど
異様な光景が広がっていたわ
生徒達、教師達がみんなそぞろ歩いていたの
みんな虚ろな目をして
青白い顔をして
ゾンビみたいに歩いていたの
そしてね
しばらくしたら
みんなの身体が透明になっていったの
みんな消えてしまったのよ!
私は信じられなくて
信じたくなくて
自転車に飛び乗って
近くの交番に向かったの
でも
交番には誰も居なくて
備え付けの電話も掛けようとしたのだけど
何処にも繋がらなくて
信じられなくて
自転車を必死に走らせて
家に戻ってみたの
でもね
信じられないことに
誰も居ないの
ママが居ないの!
どうして?
ママは何処に行っちゃったの?
私は
パニックになって
パパのケータイにも何度も電話したし、メールもしたよ
でも
パパにも繋がらなくて
家から掛けても警察に繋がらなくて
信じられなくて
そしてね
気が付いたらね
「彼女」が居なかったの
いつの間にか「彼女」が消え去っていたのよ!
私は
この時に
本当の恐怖を味わったんだわ
本当に
心の底から恐怖したわ
辱められていた時よりも
どんな嫌がらせを受けていた時よりも
恐ろしかった
私は
家から
外へ出て
何度も何度も「彼女」の名前を呼んだわ
「彼女」の名前は
「ディンガルノ」っていうの
私は
夕焼け空に向かって
何度も何度も
「ディンガルノ!」「ディンガルノ!」って叫んだわ
それでも
どんなに呼んでも
いつまで経っても
「彼女」は
「ディンガルノ」は来てくれないの
来てくれなかったの
「ディンガルノ」が来ないのだから
「彼女達」も来てくれることはなかった
みんな二度と戻って来なかった
みんな二度と戻って来なかったの!
信じられる?
パパ
それでね
あれからね
私は
一人きりなの
一人きりで
ママの神様にお祈りしていたの
どうしてこんなことになってしまったのですかって
どうか良くして下さいってお祈りしていたの
パパ
早く帰って来て
早く帰って来て
ママを探して
パパ
早く帰って来て
私を見付けて(でも)(パパは)(遅かったね)(私は)(もう)(家に居ないから)
私は
「ディンガルノ」が帰ってきてくれないから
あれからずっと家の中に居たの
外の世界がどうなっているのか
分からなくて
騒がしかった気もして
だからね
恐かったからね
私は
頭がおかしくなっちゃったんだ
いつの間にか
ママの世界の神様が信じられなくなってきてね
違う神様が
見えるようになってきたの
「彼」は
素敵な神様なの
だって
私を透明人間にしてくれたの
パパ
この手紙を早く読んで
ママを探して来て
そして
パパが
ママと二人で
私の世界に来てくれたら
嬉しい


大規模な戦闘が終わったらしいこの星に
「僕」は
「ボビー」の気配を追っている内に
辿り着いた
そして
この携帯電話の中のメモを読んで
この星でも
過ちが繰り返された現状を知った
この星は既に無人だった
「僕」は
永久に
「ボビー」を追い掛け続けなくてはならないのだと
この星の
戦渦の跡を知り
再認識していた
無力感に包まれながら
星から離脱した





自由詩 悠久かくれんぼの拡散 Copyright ゴースト(無月野青馬) 2013-10-24 00:55:25
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