アパートメント
伊織

たぶん今頃あなたは
見知らぬ女のために
木綿豆腐を切り分け
お出汁にすべりこませる
積算書にメモ書きをしてみせた
やわらかく白い指先で


一方残業を終えたばかりのわたしは
娘のお迎えの時間を
概算で実母に連絡する
夕食は既に済ませている


完全に隔てられている生活
交わり合うはずのない生活


隣に住む学生カップルは
バラエティーを見ては笑いあう
反対側の隣の老夫婦のことは
よくわからない


壁一枚で分けられた生活
行儀よく収められた生活


例えばあなたの箱と私の箱は
約3km離れているのだが
それらを並べて置いてみたところで
ユニットはそれぞれ独立しているが故に
どうあろうと2つであることに違いはない
箱は
わかれている


今日もまた積算の書類を持ってあなたが来る
パブリックスペースは
常に
こんなにも
残酷だ


自由詩 アパートメント Copyright 伊織 2013-09-09 23:09:12
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