昨夜のはなし
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重たい黒に塗り潰された部屋で、
僕と松子はアートオブジェのような、ひとつの塊になっていた。

ふるふる、と虫が哭く声は、この隔離された空間では他所事。
今、隣で耳の傍でふるえる【鈴の音だろうか?】音が、こちら事。

 あああれはね、松子、君の思い過ごしだぁな。
 僕はね、松子、裏切ったりぁ、せん。
 「裏」ちゅうのはな、松子、本当の心のことだ。
 それを「切る」ゆうわけだから松子、そういうことだ。
 そんなこつ、ワレが松子にするわけなかろ?

松子は全く聴いていないのか聴こえていないのか聴くことがそもそもできないのか聴かない振りをしているのか聴こえているが反応しないのかできないのかはたまた聴いたからこそ反応しないと選択したのか

一向にわからぬ。判別がつかぬ。分別もつかぬ。

土台、
この閉ざされた空間には僕と松子とで充溢しているそう、じゅういつ、しているか ら
喩えば卵を殻を割らんようにぐっちゃぐぎゃぎゅぐぎゃぐと振り回してそんな中身ができた ら
それはもう卵ではないが依然としてそこにあるのは卵の部品、全て揃っている、でででで で
つまり僕と松子はもうぐっちゃぐぎゃぎゅぎゃぐなのでもう部品は揃っていてだけ、どだけどだけ、どだけど、ど、ど、どどどどどど、

 ねえ、松子?
 しあわせ、か?
 うん、しあわせ、や
 うん。しあわせ。や。



翌朝、このアパートの一室で大人二人分の遺体が見つかった。
二人分、というのは、それらは接合されて一つになったいたから。
警察が踏み込んだときには確かに全て出入りできるところは施錠されており、
合鍵も大家のマスターキーのみで、大家には疑いようのない不在証明があった。

警察では、
「深夜、ひとひそと話し声が聞こえてきた」
という隣人の証言を元に、捜査を続けている。


自由詩 昨夜のはなし Copyright xxxxxxxxx 2013-06-15 23:59:47
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