思春期
飯沼ふるい

交差点で立ち止まる
君の肩に
桜の若枝が
撓垂れていた

あたらしい通学路に
あたらしい微熱が
恥しげに
淀んでいた

火葬場の匂いのこもる
鉈の重さの
春に


 赤から
  青へ
 信号は
  点滅します
 点滅します


白線に沿って歩きはじめたのは
生えめた
柔らかい鈍色の筆跡
つまり
君のかたちを奪おうとする
あたらしい性感帯と
もはやそこに
隠れ場の無い
たましい、ということばのぜったいてきな
嘘。


君はまだ無能を知らず
季節は老いていくのをやめない
それらを臨む
町の視線の終点にさえ
永遠らしさなど
見当たらず
街路を吹き抜けていく、風、
君の歩調を、否定しながら


  吐き気、そして僅かな
   ちりあくた、ちりあくた、


君は
髪に降りかかるくすぶった遺灰を払い
斜陽する町の影と手を結ぶ

君の季節は
日差しと共に
崩れていく

 
  青から
 赤へ
  信号は
 点滅します
  点滅します


今、君は
交差点の不確かな空白上で
曇った銀細工のように
語ることを諦めて
歩いているのか
立ち止まっているのか

そのあわい
重ねられていく君の心音だけが
この町の
虚んだ視線に
鋭く、屹立している


自由詩 思春期 Copyright 飯沼ふるい 2013-05-13 12:54:37
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