かなしい
風呂奴

かなしい、

張り巡らされた路線のどこか
車窓は残像をつくるだけだし
吊り革の黄ばみは
誰かしらの時を、わたし以外の
世界の破片を蓄積させ
運びつづける

町から街へ、
昼から夜へ、
人から人へ、
わたしから、あなたへ、

譲る座席もなく
思いやりの芸当は苦役だ
目に見える世界や、
目に見えないあなたのために
発車する満員の言葉たち
そのどれかに乗っているのか
降りているのかも解らない

気分のほつれを
「青い薔薇」や「ガラスの森」に
誘い込もうと
かなしみ、を発った言葉に乗車して
他人のように吊り革を汚した

かなしい、

言葉だらけのこの車両は
どこかに連れてくれそうで
どこにも運んでくれない




自由詩 かなしい Copyright 風呂奴 2013-03-19 11:56:45
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