call
紅月

いきものたちの正方形は
どこまでも直角であればいい
といのるそばから
いびつにつづく石畳の久遠に
分化しゆくあわい複眼の滴が砕ける


雨煙のなか
ただ立ち尽くす
(なまあたたかい東西の壁)
水に濡れた枯葉の群れから
数多の挨拶は失われてゆくから
つらぬくような凍えのなかで
かわいた吸気の骨格の
なだらかな勾配のさなかへ
投身する空蝶の両翅/花弁
あざやかなくちびるから垂れる
一条の宿り木のこんじきの蜜が
たわむれるゆいいつの音楽として
罅割れた石畳を叩きつづけるのだから
もうなにもいわなくてよいから
水彩の絵具がふりそそぐ螺旋に濯がれ
他愛もなくふやけてゆく視界は
葉の抜けゆく秋の大樹のように
彼方にたかく枝を拡げたまま


(かたちない独房の
半透明にすけた檻の隙間を
空欄に入る記述だけがすりぬけてゆく)
錆びた蝶番がこつこつと鳴き
打ちつけられる利き腕は骨の/古枝
いびつな石畳のうえに立ち尽くしながら
反響する雨煙の螺旋の
呼び声にうすい鼓膜をかたむける
ひとりでに震えるくちびるが
物言わぬ系譜の勾配をくだりおちて
はなばなの潤いに分化しゆく複眼の
丸い卵塊だけが宙でくるくると廻りつづけている

 


自由詩 call Copyright 紅月 2012-10-01 06:48:33
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