dialog
紅月

目的などなかった
最寄りの寂れた無人駅から
たまたま通りすがった赤錆の列車に乗った
血の乾いた衣服はぼろぼろにほつれ
おそらく僕はひどく青ざめた顔をしていただろう
幸いにも乗客はほかにいなかった
スプリングの効かない紺色の座席に腰かけ
いまだ吹雪く氷の世界を車窓から覗いていた


ひどく叙情的な冬を超過して
雪解けの水辺に列車は留まる
対話という未明に操られるように僕は
いつのまにか棘蔦に呑まれた
きしむ列車を降りリュウキンカの丘をくだってゆく
(こんじきに影がはしる、)
草笛を鳴らしながら裸のミュゼ
たわむれに名前を呼んでみせる
(まだ、ここではない、という)
野をかけるうちに皮膚がうたわれてゆく
さみだれが喉をみたしてゆく


なだらかな均衡を窪ませるもの
Konjiki/の、ここに、
how, howl, そのうつわへ
鈴のような作為が溜まってゆく
弁解の、(蜃気楼、)
打算としてのオルカがたわむる、花々の牽く軌道に
どこまでも/たがう、ここは、
(陸地なのだった、夏の、)
呼ばうさきに罫線の吐露をほどこす
追われる文明を、聴かない、標さない、(howl,)
踏絵/群れの隠喩としての軟水が足指をくぐる
(告白するために分かたれたひとの墓碑銘)
けっしてうたわれてはいけない
それが大昔からの掟だった、


やがて
かたちのない雲は血に濡れ
こわばったまま冷たくなってゆくから
痩せほそるリュウキンカの丘に火は放たれて
あらゆる制約書が燃えてゆく秋
(こんじきの鱗粉が跳ねる、紅海、)
なにも聴かない
標さない
ただ原理だけがやまない
はげしく波打つ時雨のさなか
(僕の、)


目覚めたときいつもここに戻っている
立ち尽くしている
(目的などないから、)
最寄りの寂れた無人駅に
幾度もおとずれる赤錆の周回列車
身を投げるには浅すぎる空集合(灰色の電波塔、)
ともしびが届かないところまで
もぐるあわい幽霊へと手をかざす僕の
頬にあたたかな白蝶がとまった
初雪だった





自由詩 dialog Copyright 紅月 2012-09-22 06:17:47
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