「詩は、酔っ払って落水しても溺れる心配のない便利な海だ」と言いたいだけの詩
風呂奴

1

酔いどれ船の上で
朝日を待っていました

海のない部屋で
発泡酒の空き缶を
3つ4つ潰す夜
浮かび上がる船体に
千鳥足で乗り込むだけの
シンプルな船旅

朝日は
僕らが待ち望まなくとも
昇るらしいから
待ちぼうけることはない
空き缶が潰れる度
船底は丈夫になるし

溺れる海もない船上より
朝日を待っていました


2

6本の弦と
ありふれた酩酊で
密封した夜

気楽な海が
ノートの上へ
垂れてゆく

滴る海水は
言葉になって蒸発するから
ノートはいつでも
乾いている
そんな気もする


3

荒波に揉まれたあとの船上で詠まれた詩も、安全な陸地に築かれたさまざまな一室で詠まれた海も、活字に幽閉されたまんま、酔って唄う夜に着地するだけ。

酒気を帯びた月明かりは、いつまで経っても無臭なので、通り過ぎる詩人の眼差しを、すべて夜風の音に誘導してゆく。

僕らは口ずさみ易く、なじみ深いメロディの開発と、新しい星座の住処をでっちあげることだけに退屈を捧げようとした。女を連れて歩く高揚感だとか、裸になって踊り狂う芸当が、この街のどこにも見当たらないから、砂浜と波音を捏造して、調子の狂ったギターで誤摩化しながら録音する、その有り様を「若さ」で片付ける。「青春」、でもなんでもよくなった。


酔いどれ船は、眠気に座礁する。
朝日はすでに、昼だ。


自由詩 「詩は、酔っ払って落水しても溺れる心配のない便利な海だ」と言いたいだけの詩 Copyright 風呂奴 2012-05-09 18:46:22
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