signifiant
紅月

それから、
と いつも
はじまりは
それから、
おだやかに
火葬された赤子の
骨は小指の
爪ほど小さな
鈍い星の
欠片みたいだった
みたいだった
という
あえかなる比喩が
途絶えたはずの
シナプスの
零落のひとつひとつをなぞるように
曖昧な
詩情で埋めて
不明は、やさしい
どこまでも、やさしい

反芻するうち
叩きつけられた、
硬いアスファルトのうえに


酩酊する
音叉


風がなびいている
青い
地雷原の静けさと
そこに立つ素足を
すずしい水が抜ける
油絵のように
浮きあがる緑と
禿げた皮膚のように
散点する土色、
空を見あげれば
そこにある海は
とても不気味だったことを
おぼえている


溢れてくる指、
は なぜ
これほどまでに
傾いているのか
その傾斜を
熟れた赤林檎が
転がってゆく
鼻腔を突く
甘さ
 「顔をしかめて。
なぜ
 「比喩を置いてきた。
なにも追ってはこない



ゆうれい、
あなたもゆうれい?
、あなたも?



風になびいている
白煙、
焚き火のなかへ
古書が投げこまれては
にがい音で爆ぜ
溶けてゆく
(あらゆる比喩は
赤子なんだよ)

耳元で声がして
千切れたはずの
シナプスの
ひとつひとつが点されてゆく
(なにと
刺し違えればよいのか)
このひろく
青と緑と肌色が
まだらとなった
地雷原の果てのほうに
ふらふらと立つ
白いゆうれいたちの影が
どこまでもながく
風になびいている

 
 
 


自由詩 signifiant Copyright 紅月 2012-05-02 02:54:10
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