落日
紅月

鋭いふじつぼが覆う
防波堤に腰掛けては
水に平行に浮かぶ灯台と
水を垂直に貫く灯台の
交差点を横切ってゆく
ちいさな鴎の残響を聴いていた
だんぜつの白砂のうえに
残しておいたはずの足形も
ひとつのこらず剥ぎおとされて
(嘔吐だけは堆積するのに、)


うねる波は朱色
風に遊ばれる薄いカーテンのようだ
ね? と、
錆色をした明喩を拾っては
飛沫の先へ投げる
(押し返されては
ひとりでに戻ってきて、)


翡翠の原を砕きながら
いっせいに
対岸へと駆けていった子どもたち
なめらかな鏡面から幾つもの
尖った指先が顔を覗かせていた
まさぐっているのは
こちらではなくあちらなのか、
問答の乾かないうちに
誰もいなくなった
あがる飛沫はやがて発火して、


あわいまどろみばかりが
白砂に打ちあげられては
代わりに浚われてゆく影を
追う影もなく、
熱のない炎上をはじめた島が
しだいに焼け焦げてゆく空へ落下する
(さかしまの比喩はひたすら明滅し
鴎の呼びごえは潮騒に埋もれて、)
 
 
 


自由詩 落日 Copyright 紅月 2012-04-26 18:24:11
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