白雨
紅月

 
 
(dear L,)
 
 
西窓から
こがね色の蜂蜜があふれ
あけわたされた廊下を
遊び風が濯ぐ
木目の数だけ鈍くきしむ床に
罅割れた指を這わせて
(鳴いている?)
やまない久遠の
練乳のような午睡のうえ


文法的には
あやまちなどない
細身のあなたが横たわる
あわく宿る偽りの水のうえに
おおよそ嘘という語意の
あえかな名前が呼ばれ
遺品のために列をつくる亡霊たちの
さいごのひとりに加わる


寡黙な西日に浸された
青く茂りつづける畳の
ささくれを摘む
軟らかな風の抜けていくのに
ひとつも萎みはしない午後に
いつしか緩みきっていた廊下を
ひたひたと伝う蜂蜜
(鳴いている、)
かたくなに硬い
さいはての骨すらつらぬいてゆく
甘くながく滴る午睡を
指でもてあまして
 
 


自由詩 白雨 Copyright 紅月 2012-04-16 21:10:10
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