太陽の膨張
水瀬游

どこまでも青く晴れ渡った空の下には
巨大な蜥蜴の骨だけが
死の直前の姿そのままに横たわっている

入道雲が
ゆっくりと流れていく

彼らという物が
どうやらいたらしい という事は
僕たちの間ではよく知られている

彼らがいた事は
誰も覚えていない

人間がいる
人間はここにいる
人間を見た記憶は
僕たちの誰もが持っている

僕が居なくなったあとも
僕はどこからか誰かを見て
自分がそこにいた事を
思い返すのだと思う

僕が眺めるのは
血の繋がりのある誰かかもしれないし
そうでない誰かかもしれない

蜥蜴達はどうなのだろう?
彼らは僕たちを見て何を思うか?
自分達の仲間が居ないことを
嘆くかもしれない
生命の面影に
喜びを覚えるかもしれない

人間がいた事をいつか
誰もが忘れてしまったら
僕もそうする他ない
生命の面影が無くなったなら
地表に焼き付いた生命の跡を眺めながら過ごすだろう
大地が無くなれば海を見る
海が先ならば大地を見る

そして
いつか

そのあとの事は あまり考えたくない


自由詩 太陽の膨張 Copyright 水瀬游 2012-03-28 02:12:54
notebook Home 戻る  過去 未来