百行書きたい
水瀬游

ひとりになりたい
全てを投げ出して外に出たい
窓を開け放ちたい
良い季節が来たことを実感したい
人の手が入っていない自然を捜しに行きたい
そんなものは無いよと告げられたい
それもそうか と納得したい
なるだけ綺麗な野原を探しに行きたい
風に当たりたい
草の上で寝てみたい
土の柔らかさに呑まれたい
誰にも気づかれず沈んでいきたい
地面の下の冷たさを感じたい
マンホールから外に出たい
ひとりのさみしさを思い出したい
血肉としたい
血肉となりたい
高い牛肉が食べたい
安かろうが麦茶が飲みたい
そういえばお酒も飲みたい
杏酒を飲まずに眺めたい
お洒落な瓶に注ぎたい
魔法の薬に見立てたい
琥珀色の神秘性を感じたい
昔から魔法が使いたい
昔から空を飛びたい
杖とつるぎを手に入れたい
竜の背中に乗ってみたい
そんなものは無いよと告げられたい
納得していることは隠したい
不思議な出来事に触れたい
無理な説明をこじつけたい
現実も見たい
明日も休みたい
夏が来る前に行ってみたい
貴方の視点を知りたい
人生を悲観するのをやめさせたい
自分は人生を悲観したい
そろそろ手を抜き始めたい
みたい
ききたい
いいたい
手を抜くのはやめたい
みんなで書きたい
やりなおしたい
作中世界に行きたい
未来に行きたい
自分の子供と話したい
そんなものは無いよと告げられたい
不安になりたい
平和に過ごしたい
憂いなく過ごしたい
楽しく過ごしたい
ストレスの原因を取り除きたい
家系図を見たい
自分の由来を知りたい
読書したい
議論したい
性の話を崇高そうに語るのをやめさせたい
ということは小さく呟きたい
他人の恋愛をメチャクチャにしたい
願望だけにとどめたい
人の異常な部分を覗きたい
覗くだけにとどめたい
明るい話題に変えたい
髪の毛を切りに行きたい
晴れの日か雨の日にしたい
曇りの日は飛び越えたい
また雲の上に行きたい
飛行機に乗りたい
もう少しでお昼にしたい
いい天気だから外で食べたい
風に当たりたい
お米よりはパンが食べたい
ちゃんと野菜も摂りたい
デザートに果物が食べたい
オレンジジュースでビタミンを摂った気になりたい
思い込みたい
見返してやりたい
絶叫したい
人の心を打ちたい
共感を得たい
毒を含みたい
奇をてらいすぎるのは避けたい
ありふれたものになることだけは避けたい
自分を客観的に見たい
客観的なんて言葉を使うのはやめたい
中途半端から目を背けたい
真意を知りたい
できることなら悩むのはやめたい
全てを投げ出して遠くに行きたい
真夜中に外に出たい
人のいない道を歩きたい
物足りなさを感じたい
携帯電話を取りたい
自分の不幸を嘆きたい
そんなことないよ と言われたい
それもそうか と気づきたい


(この作品は、詩人・秋亜綺羅氏の作品、「百行書きたい」に倣ったものです。
「百行書きたい」で検索すると一番始めに秋亜綺羅氏のブログがヒットし、原作が掲載されています。是非、そちらも併せてお読み下さい。)


自由詩 百行書きたい Copyright 水瀬游 2012-06-06 00:22:19
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