からまる
佐々宝砂

ものすごく悲しいのだが理由がない。
誰か死んだような気がする、
いやバカバカしい、
いまこの瞬間誰かが死んでいるのは当たり前の事実だ。

理由がない、理由がない、理由を探す、
たとえば君に会いたくて会えない、
なんていうのはどうだろう、
でもわからない、君は誰だ。

泣きながら、涙の理由を探している、
君が誰か考えようとしている、
誰でもないものを名付けようと、

アケビの蔓からまる庭で、
ひたすら泣いてみる。
近所の人が見たらどう思うか、
まあそんなことは知らん、
私は近所づきあいのいい普通の主婦だ。

ああ、あのひとに会いたい、
あのひとが誰か、
わからないとは言わない、
あのひとがいないとは言わない、
あのひとがいるところはわかっている、
わかっていて、
そんなこと私は認めない。
私は誰にも会いたくねえぞ、ふん。
あんなバカのことは知らない。

それにしても悲しい。

悲しすぎるからアケビの蔓を切りまくる。
切っても誰も怒りはしない。
私のアケビだ。
私の蔓だ。
みな、切れてしまえ。


自由詩 からまる Copyright 佐々宝砂 2004-11-29 22:47:33
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