娘たちのパン
佐々宝砂

私は大地だなんて今更そんなこと歌いながら歩いてゆく
まひるの高速道路さすがにちょっと危険
でも引率する彼女の後ろにはぞろぞろと娘たちがついてくる
娘たちは美しかったり美しくなかったり
あるいは美しさなんかどうでもよかったりする
要するに娘たちである娘たち全般がぞろぞろとついて歩くのである
私自身は俯瞰しているそういう立場にあるつまり上空を飛んでいるのだが
逆風が強いため飛び心地はあまりよろしくなく
重たい防護服が原因なのだがだんだん高度が落ちてきて
そろそろ私の立場も危ういのである
彼女と同じ立場に立ってしまったらどうしようそれだけは
避けたい私は大地になりたくない私はそもそも大地でない私が大地に
触れるとしても私は大地になりえない
逡巡する私は実は上空にいるのでなく地下にいるのかもしれないが
ともかく私は大地ではないのだ大地は彼女である
彼女はすんなりと細いが腕は筋肉質で頼もしい
その腕から指先からぽろぽろとパンがこぼれてゆくまるでむげんに
永久にこぼれてゆくかのようなそのパンがほしくて
あまりにもほしくて
私は大地に激突するだろうもうすぐ



(連作「中有の物語」より)


自由詩 娘たちのパン Copyright 佐々宝砂 2004-11-12 04:16:23
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