改札
錯春


 骨を押しつぶす音が聞こえた
 あれは傷つける音だ
 あれは私を悲しませて、悼ませる音だ
 あんな音は聞いてはいけない と
 耳を塞いだ
 自分か 娘か 迷って、娘の耳を塞いだ
 嗚咽を
 体液を撒き散らす痙攣を
 聞かせてはならないと思った
 私の 娘の 全ての 体から
 そう 唇から
 止め処もなく溢れる木枯らしを
 私は聞かないように振舞った
 無駄と知っていて
 そう、わかっていて

 雑踏が
 あの雑踏に紛れてしまえば
 何だかぜんぶが聞こえなくなってくれる気が
 、して、
 ポケットの小銭ぜんぶ集めて〜♪といった
 JPOPが昔はやった
 私の小銭はいくら集めてもなくならなかった
 いつまでもいつまでもポケットの暗闇から
 いつまでもいつまでも沸き出でて
 まるで
 どこまでもどこまでも逃げろと
 いつまでもいつまでも逃げろと
 急き立てられているようだった

 轟音の中
 あれは、轟音だった、そう、騒音
 私は耳を塞いで 娘の耳を塞いで
 手指の湿疹が疼くのを堪えながら
 血が通った残酷な音の中を
 恐れながらも進むしかなかった

 ふと、

 うつむくと
 私に娘などいなかった
 止め処ない音の群れ
 私は涙が 眼から 鼻から
 滴り落ちるのを感じた
 裸足の踵はヒビ割れて
 膿が路上に零れ出た
 肩が震える度に
 ポケットの小銭が鳴る
 ここも
 どこも
 私の場所ではない
 娘は いない
 どこかに辿り着く切符が
 切符が欲しい

 私の息だけ白かった

 誰も
 だぁれも 気付かなかった。



自由詩 改札 Copyright 錯春 2011-01-09 14:44:47
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