冷酷
錯春


 ?……


アンタが今 そこにいるってこと 教えてくれ。
アンタが今 生きているってこと 教えてくれ。

大好きだった祖父さんも、
死んだら優しくなかった。
死んだら もう 頭を撫でてくれなかった。

大好きだった 血が繋がってなかった祖母さん。
血が繋がってないことを 
よりによって葬式で知った祖母さん。
俺が泣いて、
血なんかどうでも良いよ と
祖母さんの優しさが 
血と同じぐらい
俺の体を廻った、と
もう血も涙も無くなってしまった祖母さんに
聞かせたくても。 
俺は聞かせたかったよ。
耳も消えて
全部 死んだら酷く焦げて、

弔いは優しくない。
生きている奴等は
皆 優しくなかった。
生き残ったということは、
優しくない証だった。
優しい人は皆 死んだ。
死んだら その優しさも死ぬのに、
死んだら、
優しく してやれないのに、

俺も生き残った。
最悪の事態だ。



 ?……



アンタが 俺と同じく 今、生き残って
アンタが 俺と同じく ただ、怒るなら

俺が優しくしてやる。
俺が聞いてやる。
きちんと頷いてやる。
だから
向かい合って、膝つき合わせよう。
誰かの羨み。
誰かの悪口。
誰かの噂話じゃない、
他でもない
自分の話をしよう。

自慢話でも、
苦労話でも、
住んでる部屋の間取りの話でも良い、
他でもない、
アンタの話を聞こう。

俺は優しくしてやろう、
何もしてやれないし
綺麗なものも買ってやれないよ。
でも時間だけは腐るほどあるから
俺の傷みかけた時間を
アンタの為だけに使う。
他に使い道もないし。



 ?……



期待に胸を膨らませて目を覚ますと
決まって
皆は外に遊びに出た後
母親は抱きしめてくれたか
父親は叱ってくれたか
それで満足 できるか ?
欲しいのは優しさ
優しくしたいんだ
愛は足りているから
「良い子」
「可愛い子」
「愛しい子」
じゃなくて
優しいねって 言われたいだけ



 ?……



彼岸の墓参りだった。
見慣れた墓地。
いつも一番 綺麗で。
掃除されてて。
花も 芳しかった。 あの墓。
線香をあげに来るのは盲人の老婆だけだった。
老婆は萎びた指で色褪せた菊だけ選んで荼毘にふした。



 ?……


思いついたか
時間は 充分あっただろ、
時間は 充分与えただろ、

そんなに怒るなよ、
怒鳴らないでくれよ、
携帯を手放せよ、
アラームは解除して、
たまには炊飯器使って、
できれば味噌汁もつけて、
泣いたってろくなことないけど、
何もしないよりマシだろ、

乱暴な言葉、
残酷な言葉、
悲観的な言葉、
感傷的な言葉、
センチメンタルな言葉、
メメントモリな言葉、
語尾に「!」ばっかり で、
自虐的な笑い、

良いんだよ、
何を言ったって、
全部聞くから、

真剣に見詰めるのは、
優しくないって?
よく言われる、
俺は 慰め方を知らないし、
俺は 褒め方を知らない、し
全然 上手に、笑えないし
誰かを 喜ばせた事 なんて、
ないかもしれない、
それでも、
教えられたのはコレだけ、でね、
真面目にしか出来ないんで、ね
俺は、アンタに優しくしたい、



 ?……




さあ、教えてくれ。
時間はドッサリあっただろう?
俺はアンタに優しくしたい。



アンタは何がしたいんだ。



自由詩 冷酷 Copyright 錯春 2010-12-26 10:10:40縦
notebook Home 戻る  過去 未来