輝きの残骸
裕樹

 
 
 雨を
 風を
 君は無情と例えたが
 ごらん
 あんなにやさしく美しいものはないじゃないか
 ゆうべの雨が
 ななかまどの葉をすべて攫ってしまい
 衣をはぎ取られた枝が艶めかしくポーズなどをとっている
 衣はと言えば根元に未練がましく重なり
 折り重なる蟲の死骸のように
 まだ雨の名残をのこして濡れて光っていた
 情事のあとだよ
 まぎれもなく

 ああ
 なんたる美しい交尾だろうね
 今あの枝は空に接吻したのだよ
 その証拠に
 よくごらんよ
 頂点を目指すように最後に背伸びをして
 残りの一枚がほら
 ゆっくりとはがれおちてしまった
 思いを遂げて絶頂を迎え小さな死を得るように
 
 朱の美しいななかまども
 今は街路樹の一つでしかない
 しかも貧相なたたずまいの裸の枝を方々に伸ばして
 なんの彩りもないままに
 そこにあるというのに
 また来年の美しい恋を夢見て
 枝はしなやかに揺れる

 輝きの残骸は
 道路がすっかり乾いたころには
 いたずらな風が手伝いながら
 どこかへ逃げてしまうのだろう

 もう
 私は覚悟を決めたよ
 輝きの残骸を見つめながら
 ああもうはっきりと覚悟を決めたよ
 
 君
 冬が来るのだよ







自由詩 輝きの残骸 Copyright 裕樹 2010-11-09 13:33:47
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