見送る
岡部淳太郎

俺たちは列車を見送っていた
線路の脇の柵に囲まれた高台の上で
俺たちは黙って立ちつくし
通り過ぎる列車をただ見送っていた
柵を乗り越えて列車に飛びこもうと思えば
出来たはずだがそうはしなかった
列車の中には座って眠ったまま
乗り越している人がいるはずだった
俺たちは乗り越すことも出来ずに
ただ列車を見送るだけだった
空は息を敷きつめたみたいに曇っていて
どこまでもつづく線路のように果てが見えなかった
俺たちはそれぞれによく似た互いの顔を見交わし
また視線を落として線路を見た
いまもどこかで列車が走りどこかで
もうひとつの俺たちが分裂して佇んでいるはずだった
俺たちは結局それぞれにひとりで
それぞれに淋しいだけだった
そんなことは俺たちにもわかっているはずだが
やはり黙ったまま列車を見送るだけだった
もういくつの列車をこうして
見送ってきたのだろう
俺たちは柵の中で見上げては
見下ろしつづけた
見送る
そのことの情け
あるいは情けなさ
俺たちはその中で変らずに
俺たちでありつづけるしかなかった
いのちのしずけさも変らず
それは見送られることなく
俺たちの中にありつづけた



(二〇一〇年十一月)


自由詩 見送る Copyright 岡部淳太郎 2010-11-08 21:17:37
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