無題
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それは深い眠りだった。
始めからそれは眠っていた。
そう、生まれた時から。
17年間眠り続けてきたそれは、
ある日唐突に目覚めた。
それが目覚めることを、
知識としては知っていた。
あるひとはそれは歓喜に満ちている
と言った。
あるひとはそれは苦痛に満ちている
と言った。
それらはどちらも正しかった。
ヒトとは容易く論理の枠から
外れるものだと知った。

それが目覚めてからは、
試行錯誤の毎日だった。
初めて自分の世界が、
ただひとつのものではなく、
数ある中のひとつだと知った。

どうやって他の世界と
接続するのかが知りたかった。
それは始め容易に思えたが、
やがて
他のどんなことよりも
難しいのだと悟った。

そして、どんなことより大切だということも。

僕は銀の月になった。
夜空にひとりぼっちの
他人の光で輝くだけの
満ちては
欠ける
不完全で
まるで進歩しなくて
ただただ周り続ける
そんな存在。

星星に向けて線を伸ばした。
それを結んでゆくと
星座ができた。
ただひとつひとつ在ったものたちが、
新しい意味を持った。
それは僕の孤独を癒す為の
唯一で最善の手段だった。
と、思う。

しかし星星は多すぎた。
すべてに線を結ぶことは出来なかった。
それは僕の世界が完結しないことを
意味した。
苦悶した。
しかしそのこと自体の意味は
わからなかった。
何故完結しなければならないのか。
それを問うには
空は空虚すぎて。
何も反響しない。

夜の毒気に中てられて、
眼窩から百合が咲いた。
百合は完結していた。
自らに雌雄を持っていたから。
百合を通して視る世界は、
花火の如く咲いていた。
どんなに小さなものでも。
世界中が咲き乱れていた。

吐き気がした。
僕は百合を引き千切った。
額には汗。
渇いた空気がすぐに乾かす。

夜の街には明かりが灯っていた。
少し前までは僕もこの中にいた。
受験生、という名目で戦っていたのだ。
ただ、名目なんてなんだっていい
なんてことに気付いたのは、
すべて終わった後だった。
目覚めたそれを抑えながら
戦った者(僕がそうだ)、
身を委ねて、落ちていった者。
どちらが後悔が少なかっただろうか?
どちらも後悔はあった、だろう。
それでも。
どちらかしかなかったのだから。
しかしそれらどちらも、
望んだものは同じだった、と思う。
それが欲しくて、
手を伸ばしていたのだ。



今、僕はそれを手に入れたか。
否。
未だ手を伸ばしている。
――否否。
手を伸ばすことにすら、疲れている。
どこかで、
それは届かないものだって、
わかっている。
でもどこかで、
まだ諦めていないから、
だからこうして
夜な夜な世界を照らす。
月光の眼差しで。
光を浴びたモノは
そこで初めてカタチを得る。
しかしそれは僕が求めたカタチ
でしかない。

あなた。
そう、あなた。
あなたあなたあなた。
あなたはどんなカタチをしている
のだろう?
あなたはそれを手に入れたの?
あなたは。
あなたには、



色に
見えて
いるのだろう?
あなたは暴力的だった。
あなたから僕は、
理不尽と暴力を知った。
求めたのは、優しさと理知だったの
だけれど。
あなたに接続する方法は簡単だった。
しかしその方法は、
簡単過ぎて、直截的過ぎて、
何も伝え得なかった。
それで満足だとも思った。
その満足は、
流れる星よりも、
儚かったけれども。
けれど目覚めたそれは、
確かにあなたを指していた。
確かに、
この肌が、
この舌が、
この耳が、
この眼が、
それを捉えていた。
どうしようもないくらいの
確信、だったと思う。
今ではその感じを思い出せない
けれど。

音楽。

そう、音楽がそれを再現してくれる
唯一の装置だ。
だから僕は、
同じ音楽を何度も聴くんだ。
一度経験したものを、
再び経験するのは、
一見無駄だけれど、
そのときにしか感じられず、
それが終わったらすぐにでも
忘れて仕舞う。
そんなものがそれだ。
だから何度も聴くんだ。
みんないっぱい詰め込んでるけど。
ipodとかに。
再生するものは、
多分、いつも同じ。



それは眠りに就こうとしていた。
僕があまりに疲れて仕舞ったから。
けれどそれは仮初で、
僕の睡眠を妨げる。
確かに起きているんだ。
だから僕はいつも夜。
昼の光には耐えられないから。
夜空は半球になっていて、
その中央にはそれがあって、
僕のすべてのエネルギーを
吸い上げている。
だから僕はなるべく眠らなくては
ならない。
他に補充する方法を知らないから。

それが眠りに就いたなら、
どれ程の安寧が得られるだろう。
だけど、
多分。
それがなくなったら、
僕は終幕を引くだろう。
躊躇なく。
それをしないのを、
それのせいにしている
だけなのかも
知れないけれど。



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自由詩 無題 Copyright xxxxxxxxx 2010-04-23 11:45:28
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