人間のかたち
岡部淳太郎

こんなふうに
手足が生えそろって
二つの目と耳があり
呼吸も嚥下もでき
発語さえできる口があるのは
不思議なことだ
それが人間の
かたちとして当たり前に
認められているのも
不思議なことだ
それでも死ねば遺体を焼き
骨だけになったかたちを
あつめて葬る
そこまでしてもなおかつ
生きていた時の人間の
かたちを思い出して
偲んでは泣いたりするのも
不思議なことだ
たとえば
殺人事件があった現場などに
ここに一人が斃れていたとばかりに人間の
かたちが描いてある
そこにいたはずの一人は
すでに消えてあるのに
かたちだけが
のこっているのは
不思議なことだ
こんなふうに
手足が生えそろって
りっぱに人間の
かたちを成しているのに
しばしばそのかたちを
保てずにどろどろに
溶解してしまうような
気分におちいることがあるのも
不思議なことだ
たとえば
私たちは
石のように記憶だけを
凝固した存在に
なることもできたかもしれないのに
こんなふうに
人間としての
かたちを無意識のうちにも
成そうとしてしまうのは
不思議なことだ
それがたとえ
空からの命題であったとしても
私たちはいつもどおり変らずに人間の
かたちへとばらばらに集合する
不思議なことに
そうすることで私たちは
安心し
また次の人間の
かたちへと焦って
不安になるのだ



(二〇一〇年二月)


自由詩 人間のかたち Copyright 岡部淳太郎 2010-03-09 17:54:29
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