フランジ・シンドローム
たりぽん(大理 奔)

夢の終わり際から
はぐれてしまわないために
さしだした手が
たどりつく見知らぬ行方
秋の終わりを騒々しく
告げる雨まじりの北風が
夕焼けあとの闇の色を
城跡の石垣に染みこませる

まわりゆく季節から
誰かが
はみ出して
轍をたどってゆく

一度だけ失ったものを
何度もなんども朝が奪ってゆく
そのたびに、みぞれ混じりの雨が
朝を奪ってゆくのだ

もう雪が降るだろうか
日めくりを破らずに使うように
捨てきれない季節を積み重ね
今日も西のそらをみる

一度だけ失ったものが
何度もなんども朝に奪われて
そのたびに、胸の奥で
かたく尖ってゆく

なだらかな山稜に取り残された
一本の針葉樹は
まわる季節の果てに
奪われることのない冷たい棘を
持つことになるのだろう

   けして離さないと
   差し出された
   つめたく細い
   その指




自由詩 フランジ・シンドローム Copyright たりぽん(大理 奔) 2009-12-13 19:05:32
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