海鳴り
岡部淳太郎

暑い夜には
海鳴りがきこえるので
眠れない

枕の歪みを直し
蒲団の端を折りたたんで
細心の注意をはらって
寝床をととのえても
それはきこえてくる

そうして眠れないまま
目醒めた朝にも
それはきこえてくる
街に行っても
山に行っても
あるいは空の裂け目に
潜りこもうとしても
それはきこえてくる

この地球の
海の青

そんな色の心で
さまよっていると
あれは遠い昔に
やりのこしたことを
追認させるために
鳴りつづけているのだと
思えてくる

いまもこうして
人と人の雑踏の中に
たたずんでいるが
どこだかわからない海辺の
砂がきしみ波が
繰り言のように押し寄せてくるのが
きこえてくる

今日もまたきっと
熱帯夜
背後に何を置いてきたのか
わからないまま
海鳴りに
さらわれる



(二〇〇九年七月)


自由詩 海鳴り Copyright 岡部淳太郎 2009-08-22 14:15:33
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