夜の江ノ電
服部 剛

  ふみきりよ、ふみきりよ 
  無言で開いて直立する 
  縞々しましまの柱に付いた 
  夜道を照らす、照明灯よ 

  ショパンの幻影が弾くピアノを
  イヤフォンから聴いては 
  何かを夢想するように 
  夜道を歩く散歩者を 
  何故にあなたは照らすのか 

  まるで宇宙の片隅に浮かぶ 
  あの丸い舞台に立つ 
  たった独りの道化師ピエロじゃないか 

  狭い駅舎の片隅で 
  恋人達の密かにふれあう
  ベンチを横切り 
  ホームの暗い端へと歩く徘徊者の方へ 
  夜の江ノ電はやって来る 

  闇の線路の向こうから 
  灯りをひとつ、光らせて 
  ゆっくりとホームに滑り込み 
  私のような者を乗せ  
  何故に明日へと、運ぶのか 

  江ノ電よ、江ノ電よ 
  民家の合間を抜け出して 
  月明かりの照る海沿いを往く 
  時間ときの無い列車よ 



運転席には今夜も碧い瞳の車掌がひとり、立っています
 








自由詩 夜の江ノ電 Copyright 服部 剛 2009-07-31 21:25:11
notebook Home 戻る  過去 未来